SaaSとは?「所有」から「利用」へ。サブスクとの違いまで徹底解説

結論: SaaS(サース)とは、「インターネット経由で、必要な時に必要な分だけ利用できるソフトウェア」のことです。

かつてソフトウェアは、家電量販店で箱入りのCD-ROMを購入し、自分のPCにインストールして「所有」するものでした。しかし、SaaSの登場によって、ユーザーはソフトウェアを所有せず、クラウド上のサービスとして「利用」する形へと劇的な変化を遂げました。

この記事では、SaaSの仕組みから、混同されやすい「サブスクリプション」との違い、実務で直面するメリット・デメリット、およびエンジニアやビジネスパーソンが避けて通れない「ベンダーロックイン」のリスクまで、その本質を徹底的に深掘りします。

Contents

1. SaaSの正体を理解する

SaaSは「Software as a Service」の略称です。直訳すると「サービスとしてのソフトウェア」となります。

これまでは、特定のPCにインストールされたソフトウェア(パッケージ版)を使うのが当たり前でした。しかしSaaSでは、ソフトウェア本体やデータはサービス提供元(ベンダー)のサーバーに置かれています。ユーザーはブラウザや専用アプリを使い、インターネット越しにその機能にアクセスします。

身近にあるSaaSの具体例

私たちは意識せずとも、日常的に多くのSaaSに触れています。

  • メール・コミュニケーション: Gmail, Slack, Microsoft Teams, Zoom
  • ドキュメント・作成: Google Workspace (Docs, Sheets), Notion, Canva
  • ビジネス・管理: Salesforce, HRBrain, マネーフォワード クラウド, Freee
  • ストレージ: Dropbox, Google Drive, Box
Yachi

昔はPCを買い替えるたびに「WordやExcelのディスクをどこにやったっけ?」と探す必要がありましたが、SaaSが主流になった今では、アカウントにログインするだけで以前の環境がそのまま再現されます。この「デバイスを問わない継続性」こそが、SaaSが普及した最大の理由の一つです。

2. 「所有」から「利用」へ:パッケージ版との決定的な違い

SaaSを深く理解するために、従来のパッケージ版(オンプレミスに近い形態)と比較してみましょう。

比較項目パッケージ版(従来型)SaaS(クラウド型)
提供形態CD-ROM/ダウンロード(インストール)ブラウザやアプリ(ログイン)
データの保存先自分のPC、社内サーバーベンダー側のクラウドサーバー
アップデート買い直し、または手動更新ベンダー側で自動更新(常に最新)
初期コスト高い(ソフト代一括払い)低い(初期費用0〜数万円程度)
利用場所インストールした端末のみインターネットがあればどこでも
カスタマイズ比較的自由(自社開発の場合)制限あり(提供機能の範囲内)

運用コストの考え方の変化

パッケージ版は「資産」として購入するため、一度買えば追加料金はかかりません。しかし、OSのアップデートに伴う不具合対応や、セキュリティパッチの適用はすべて自己責任でした。

一方、SaaSは「経費」として利用料を支払います。サーバーの維持管理やセキュリティ対策はベンダーが行うため、利用者は「ソフトウェアを使うこと」だけに集中できます。これは特に、システム管理者が少ない小規模なチームにとって大きな福音となりました。

3. よくある誤解:SaaSと「サブスクリプション」は別物

「SaaS = サブスクリプション」と考えている人が多いですが、これは厳密には異なります。

  • SaaS: ソフトウェアの「提供形態」のこと(技術的な仕組み)。
  • サブスクリプション: 料金の「支払い方式」のこと(ビジネスモデル)。

例えば、定期購読の雑誌や、スポーツジムの月額会員制は「サブスクリプション」ですが「SaaS」ではありません。逆に、SaaSの多くはサブスクリプション方式を採用していますが、中には「使った分だけ支払う(従量課金制)」のSaaSも存在します。

「どうやって届けるか(SaaS)」と「どうやって集金するか(サブスク)」の違いとして整理しておきましょう。

4. なぜSaaSが選ばれるのか? 5つのメリット

実務においてSaaSが選ばれるのには、単に「便利だから」以上の戦略的な理由があります。

① スピード導入とスケーラビリティ

サーバーを調達したり、複雑なインストール作業を行ったりする必要がありません。アカウントを作れば、その日のうちに利用を開始できます。また、ユーザー数が増えた場合も、管理画面からプランを変更するだけで即座に対応可能です。

② リモートワークとの親和性

インターネット環境があれば、オフィス、自宅、カフェ、移動中など、場所を選ばずに仕事ができます。複数のユーザーが同時に同じドキュメントを編集できる「同時編集機能」は、SaaSならではの強みです。

③ 常に最新の機能が使える

SaaSはバックエンド(サーバー側)で更新が行われるため、ユーザーが何もしなくても勝手に機能が進化します。バグの修正や脆弱性への対応も迅速です。

④ 専門知識が不要なメンテナンス

サーバーのバックアップ、冗長化、セキュリティ対策といった「地味で大変な運用作業」をベンダーに丸投げできます。これは開発リソースを本業に集中させるために非常に重要です。

⑤ データの統合と連携

多くのSaaSは「API」を公開しています。SlackとGoogleカレンダーを連携させて通知を飛ばしたり、SalesforceのデータをBIツールで分析したりといった、ツール間の自動連携が容易です。

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SaaSを導入する際は「単体で何ができるか」だけでなく「既存のツールとAPIで繋がるか」を確認することが重要です。ツールが孤立(サイロ化)してしまうと、かえって入力の手間が増えてしまうからです。

5. SaaS導入時に注意すべき「光と影」

メリットが多いSaaSですが、導入には当然リスクも伴います。これらを知らずに導入すると、後で大きなトラブルに発展することがあります。

① ベンダーロックインのリスク

これが最大のリスクです。特定のSaaSにすべての業務データやプロセスを依存させてしまうと、「他社サービスへ乗り換えたいが、データの移行が困難で辞められない」という状態に陥ります。

  • ベンダーが突然の大幅値上げを発表した。
  • サービスの品質が著しく低下した。
  • サービス自体が終了してしまった。

このような状況になっても、ロックインされていると従わざるを得ません。

② カスタマイズの限界

SaaSは「多くのユーザーが同じプログラムを使う(マルチテナント)」仕組みです。そのため、「自社独自のこのフローを自動化したい」と思っても、提供されている機能の範囲内でしか対応できません。業務をシステムに合わせる(Fit to Standard)という発想の転換が求められます。

③ ネットワーク依存

インターネットがダウンすれば、仕事が止まります。また、ベンダー側のサーバー障害が発生した場合、ユーザー側では復旧を待つ以外にできることがありません。

④ シャドーITの問題

個人でも簡単に契約できるため、情シスや管理部門の知らないところで社員が勝手にSaaSを使い始める「シャドーIT」が発生しやすくなります。これは情報漏洩の温床となります。

6. SaaSの分類:ホリゾンタル型とバーティカル型

SaaSは、その対象とする市場によって大きく2つのタイプに分けられます。

ホリゾンタルSaaS(Horizontal SaaS)

業種を問わず、特定の「職能(ファンクション)」に特化したSaaSです。

  • 例:Slack(コミュニケーション)、Zoom(ビデオ会議)、Freee(会計)

どの会社でも共通して必要な機能を、汎用的に提供します。

バーティカルSaaS(Vertical SaaS)

特定の「業界(インダストリー)」に深く特化したSaaSです。

  • 例:建設業界向けの施工管理ツール、医療機関向けの電子カルテ、飲食店向けの予約管理システム

その業界特有の商習慣や法規制に対応しており、専門性が高いのが特徴です。

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最近では、汎用的なホリゾンタルSaaSが一通り普及したため、より深い課題を解決するバーティカルSaaSに注目が集まっています。自身の仕事がどのレイヤーの課題を解決しようとしているのか意識すると、ツール選びの視点が変わります。

7. 実務で役立つSaaS選定のチェックリスト

新しいSaaSをチームや会社に導入する際、最低限確認しておくべき項目をまとめました。

  • SLA(サービス品質保証): 稼働率(例:99.9%以上)などの保証はあるか.
  • データのエクスポート: 辞める時にデータをCSVやJSON形式で取り出せるか。
  • セキュリティ認証: ISMS(ISO27001)やPマーク、SOC2などの認証を取得しているか。
  • サポート体制: 日本語でのサポートはあるか、返信までの時間はどのくらいか。
  • ID管理の容易性: SAML認証やSSO(シングルサインオン)に対応しているか。

特にエンジニアリングに関わる場合、最近では生成AI(LLM)との連携機能が組み込まれているかどうかも、生産性を左右する大きな要素になっています。

セキュリティの要となる「SSO」の仕組みについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

8. クラウドの兄弟:SaaS / PaaS / IaaS の違い

SaaSを語る上で欠かせないのが、PaaSとIaaSとの比較です。これらは「どこまでをベンダーが用意してくれるか」の範囲が異なります。

用語フルネーム用意されているもの利用者の役割
SaaSSoftware as a Serviceアプリケーションすべて使うだけ
PaaSPlatform as a ServiceOS、データベース、実行環境プログラムを動かす
IaaSInfrastructure as a Service仮想サーバー、ネットワークOSの選定、構築、運用

よく例えられるのが「ピザ」です。

  • SaaSは「デリバリーピザ」。家で待っていれば完成品が届き、食べるだけ。
  • PaaSは「冷凍ピザ」。生地や具材は揃っているが、自分のオーブンで焼く必要がある。
  • IaaSは「キッチンスタジオ」。場所と道具は借りられるが、材料の調達から調理まで自分で行う。

開発や運用の負荷を減らしたいならSaaS、自分たちでこだわりたいならIaaS/PaaSを選ぶという使い分けになります。

「IaaS」の詳細やPaaS・SaaSとの具体的な違いをより深く知りたい方はこちら。

9. SaaSの裏側:マルチテナントという仕組み

なぜSaaSベンダーは、数千、数万もの企業に安価でサービスを提供できるのでしょうか。その鍵は「マルチテナント方式」というアーキテクチャにあります。

アパート(マルチテナント)と一軒家(シングルテナント)を想像してください。

  • シングルテナント: 企業ごとに専用のサーバーとプログラムを用意する。セキュリティは高いが、保守コストが膨大。
  • マルチテナント: 1つのプログラムとデータベースを、複数の企業(テナント)で共有する。

もちろん、データは論理的に厳格に隔離されており、他社のデータが見えることはありません。しかし、プログラムの実行基盤を共有することで、開発コストやインフラコストを劇的に下げているのです。

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「一斉アップデート」ができるのは、このマルチテナント方式のおかげです。ただし、一箇所でバグが起きると全ユーザーに影響が出るという側面もあります。SaaS運用の裏側では、非常に高度な分散処理と隔離技術が使われています。


まとめ:SaaSを使いこなすために

SaaSはもはや「便利なツール」の域を超え、現代のビジネスインフラとなっています。

  • 「所有」せず「利用」することで、変化への対応力を高める。
  • 初期投資を抑え、運用をプロに任せて本業に集中する。
  • ただし、データの出口(ポータビリティ)を常に意識し、ロックインには警戒する。

これからの時代、SaaSを使わない選択肢はほぼありません。しかし、「とりあえず流行っているから」という理由で導入するのではなく、その仕組みとリスクを正しく理解した上で、賢く「使い捨てる(あるいは乗り換える)」勇気を持つことが、真のITリテラシーと言えるでしょう。

また、近年の生成AIの急速な発展により、SaaSは「単なるツール」から「自ら考えて動くエージェント」へと進化しつつあります。入力したデータをもとに、AIが自動でレポートを作成したり、次のアクションを提案したりする機能は、これからのSaaSの標準装備となっていくでしょう。

これからのSaaSの進化形である「AIエージェント」については、こちらの記事が参考になります。

この記事を書いた人

生成AIコンサルタント / テックリード

外資系IT企業にて社内の生成AI活用推進と
生成AIプロダクト開発リードを担当。

かつてはWeb系のエンジニアとして、
モダンな技術スタックでのシステム開発から
数百億レコード規模のデータベース運用までを
フルスタックに経験。

「コードも書けるコンサルタント」として、
活用論と実装論の両面から、
現場で使えるIT知識を発信します。

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