結論: オンプレミス(On-premise)とは、自社が管理する施設内にサーバーやネットワーク機器を設置し、自社でシステムの構築・運用を行う形態のことです。
「クラウド」という言葉が当たり前になった今、あえて対比として使われることが増えましたが、かつては「システムを持つ」といえばこの形が当たり前でした。
この記事では、オンプレミスの仕組みから、クラウド全盛期の現代においてなぜあえて選ばれるのか、そのメリット・デメリット、さらには実務における運用のリアリティまでを深く掘り下げて解説します。
1. オンプレミスとは何か?(定義と語源)
オンプレミスは、英語の「On-premise」から来ています。「Premise」は「構内」「敷地」を意味し、直訳すると「敷地内で」となります。つまり、自社の建物や契約しているデータセンターの中に物理的な機材を置き、自分たちで管理することを指します。
略して「オンプレ」と呼ばれることが多く、ITエンジニアの間では日常的に使われる言葉です。
なぜ「オンプレミス」という言葉が誕生したのか
もともとコンピュータシステムは、自社で所有するのが普通でした。しかし、2000年代後半からAmazon Web Services(AWS)などの「クラウドコンピューティング」が登場したことで、状況が変わります。
- クラウド:インターネット越しに、他社のサーバーを「借りる」。
- オンプレミス:自社でサーバーを「所有する」。
この2つを区別するために、従来通りの自社運用スタイルに「オンプレミス」という名前が付けられたという背景があります。
Yachi最近では、完全にどちらか一方に絞るのではなく、機密性の高いデータはオンプレミス、Web公開用のフロントエンドはクラウド、というように「いいとこ取り」をする構成も増えています。これを「ハイブリッドクラウド」と呼びます。
2. オンプレミスの物理的な「正体」
オンプレミスという言葉は抽象的ですが、実際に運用されている場所には「物理的な実体」が存在します。実務でオンプレミスに関わる際、どのような機材や環境が必要になるのか、具体的に見ていきましょう。
サーバーラックとサーバー
まず、サーバー本体が必要です。デスクトップPCのような形のものもありますが、多くは「ラックマウント型」と呼ばれる、薄い板のような形状をしています。これを「サーバーラック」という専用の棚に積み重ねて固定します。
ネットワーク機器(スイッチ・ルーター・ファイアウォール)
サーバー同士をつなぐためのスイッチ、外部インターネットと通信するためのルーター、反映不正アクセスを防ぐための物理的なファイアウォール機器などを設置します。これらもすべて自社で購入し、LANケーブルで物理的に配線します。
電源設備(UPS)
万が一、建物が停電したときにサーバーが突然落ちてデータが破損するのを防ぐため、巨大なバッテリーである「UPS(無停電電源装置)」を設置します。
空調設備
サーバーは大量の熱を発します。狭い部屋に何台も詰め込むと、あっという間に室温が40度を超え、機材が熱暴走して故障してしまいます。そのため、24時間365日、強力な冷房で冷やし続ける必要があります。
物理的なセキュリティ
誰もがサーバー室に入れるようでは、データを物理的に盗まれるリスクがあります。入退室管理システム(カードキーや生体認証)、監視カメラ、ラックの施錠などが必須となります。
3. オンプレミスを選ぶ「納得の理由」
クラウドが便利だと言われる中で、なぜ今もオンプレミスが生き残っているのでしょうか。そこには、クラウドでは代替できない明確なメリットがあります。
① 圧倒的なカスタマイズ性
オンプレミスは「自分の家」を建てるようなものです。
- 特定のメーカーの特殊なハードウェアを使いたい。
- 特殊なOSや古いソフトウェアを動かし続けたい。
- 物理的な配線レベルでネットワークを分離したい。
このような細かい要望をすべて叶えることができます。クラウドでは「用意されたメニュー」の中から選ぶ必要がありますが、オンプレミスには制限がありません。
② セキュリティとコンプライアンス
金融機関や公共機関、高度な機密情報を扱うプロダクトでは、「データが物理的にどこにあるか」「誰が触れる状態にあるか」を完全に掌握する必要があります。クラウドの場合、データはサービス事業者のデータセンターに保存されますが、オンプレミスなら「自社の金庫の中」にあるため、物理的な安心感が違います。また、インターネットから完全に遮断された「クローズドネットワーク」を構築しやすいのも特徴です。
③ 長期的なコストの安定性(経済性)
クラウドは「使った分だけ払う」従量課金制です。アクセスが急増したり、大量のデータを転送したりすると、月額費用が予想外に膨らむことがあります。一方、オンプレミスは最初に機材を買い切るため、初期費用は高額ですが、月々の維持費は電気代や保守費程度で安定します。5年〜7年といった長期間で償却する場合、クラウドよりもトータルコストが安くなるケースも存在します。
④ 低遅延(レイテンシ)
工場のライン制御や医療現場のリアルタイム解析など、1ミリ秒の遅延も許されない環境では、インターネットを経由するクラウドは不利になります。物理的にすぐそばにサーバーを置くオンプレミスなら、ネットワークの遅延を最小限に抑えられます。
4. オンプレミスが抱える「苦労」とデメリット
自由度が高い反面、オンプレミスの運用には多大な労力とリスクが伴います。
① 導入までのリードタイムが長い
「新しいサーバーが1台必要だ」となったとき、クラウドなら数分で起動できます。しかし、オンプレミスでは以下のプロセスが発生します。
- 必要なスペックを計算(サイジング)
- メーカーに見積もりを依頼
- 社内決裁を通す
- 発注
- 納品(数週間〜数ヶ月待つこともある)
- データセンターへ運び込み、設置・配線
- OSのインストール
今日明日でシステムを使い始めることは、物理的に不可能です。
② 物理故障への対応(ハードウェア保守)
ハードウェアはいつか必ず壊れます。
- HDDやSSDが寿命で書き込めなくなる。
- 電源ユニットが焼き切れる。
- 冷却ファンが止まる。
これらの故障が起きた際、自分たち(あるいは保守業者)が物理的に駆けつけて、パーツを交換しなければなりません。データセンターが遠方にある場合、真夜中のトラブル対応は精神的にも肉体的にも過酷です。
③ サイジングの失敗が許されない
クラウドなら「足りなくなったらスペックを上げる」ことが簡単です。オンプレミスの場合、最初に「5年後まで耐えられるスペック」を予測して購入しなければなりません。
- 予測より少なかった場合:処理が重くなり、追加購入と設置に数ヶ月かかる。
- 予測より多すぎた場合:高価な機材が遊んでいる状態になり、投資の無駄になる。
この「サイジング(規模予測)」は、インフラエンジニアの腕の見せ所であり、最も頭を悩ませるポイントでもあります。
④ EOSL(保守終了)との戦い
ハードウェアには、メーカーによるサポート期限(EOSL: End of Service Life)があります。通常5年〜7年程度です。期限が切れると、故障してもパーツが手に入らなくなります。そのため、数年おきに「システム全体の入れ替えプロジェクト」を計画し、多額の予算を確保して、新環境への移行作業を繰り返す必要があります。
Yachiクラウド移行が進む大きな理由の一つが、この「数年おきに発生する数千万円〜数億円単位の機材更新」から解放されたい、という経営判断です。
5. オンプレミス vs クラウド 徹底比較
どちらが優れているかではなく、「どちらが適しているか」の判断基準を整理しましょう。
| 比較項目 | オンプレミス | クラウド |
|---|---|---|
| 初期費用(CAPEX) | 非常に高い(機材購入) | 低い(初期費用ゼロが多い) |
| 運用費用(OPEX) | 低い(電気代、保守費) | 変動する(使った分だけ) |
| 導入スピード | 数週間〜数ヶ月 | 数分〜数時間 |
| 拡張性(スケーラビリティ) | 低い(物理増設が必要) | 非常に高い(即座に増減可能) |
| 自由度・カスタマイズ | 非常に高い | サービスの制限内に限定される |
| 保守負担 | 物理層からすべて自社 | 物理層は事業者にお任せ |
| 物理セキュリティ | 自社で責任を持つ | 事業者が高度な設備を提供 |
会計上の違い
地味ながら重要なのが「会計」の扱いです。
- オンプレミス:機材は「資産」となり、数年かけて「減価償却」します。
- クラウド:毎月の利用料は「経費」として処理されます。
会社の財務戦略によって、どちらの形態が好まれるかが分かれることもあります。



6. よくある誤解:オンプレミスは「古い技術」なのか?
「今どきオンプレミスなんて古いよ」という声を聞くこともありますが、これは半分正解で半分間違いです。
古いとされる側面
単に「昔からあるシステムを惰性で動かし続けている」状態のオンプレミスは、確かに技術的な負債になりがちです。OSが古すぎてアップデートできなかったり、当時の担当者が不在でブラックボックス化していたりするケースです。
現代的なオンプレミス
一方で、最新の技術を取り入れたオンプレミスも存在します。
- HCI(ハイパーコンバージドインフラ):サーバー、ストレージ、ネットワークを統合し、ソフトウェア制御でクラウドのように柔軟に運用できる仕組み。
- プライベートクラウド:自社専用の環境内に、クラウドと同じような利便性を持つ基盤を構築すること。
最近では、生成AIの学習などで機密性の高いデータを扱うために、あえて強力なGPUを積んだサーバーを自社で購入し、オンプレミスでAI基盤を構築する動きも活発です。

7. オンプレミス運用のリアリティ:実務での「ハマりポイント」
実際に運用・開発に携わるようになると直面する、具体的な苦労について触れておきます。
データセンター(DC)の環境
多くの企業は自社のオフィス内ではなく、専門の「データセンター」にサーバーを預けます。データセンターは非常に寒いです。サーバーを冷やすために強烈な冷気が足元から吹き出しており、夏場でも厚手のジャンパーなしでは作業できません。また、サーバーの動作音が凄まじいため、耳栓が必要になることもあります。
配線の美学と地獄
ラックの裏側は、何百本ものLANケーブルや電源ケーブルが入り乱れます。これをきれいに整理(ケーブリング)しておかないと、いざ障害が起きたときに「どのケーブルがどこにつながっているか分からない」というパニックに陥ります。
予備パーツの管理
「HDDが1台壊れてもデータが消えない仕組み(RAID)」を組んでいても、壊れたHDDは早急に交換しなければなりません。そのため、手元に常に数台の予備パーツをストックしておく管理業務が発生します。
8. オンプレミスを検討すべきチェックリスト
もし、あなたが新しいプロダクトの基盤を選定する立場になったら、以下の項目をチェックしてみてください。
- データに法的・契約的な制約があるか?:「データは国内の自社設備に置かなければならない」という縛りがあるなら、オンプレミス一択です。
- 特殊なハードウェアが必要か?:特殊な計測器、特定のGPUボード、レガシーな接続規格などが必要な場合は、クラウドでは対応できません。
- トラフィック(通信量)が常に一定で、かつ膨大か?:24時間365日、フルパワーで動かし続けるシステムの場合、クラウドの従量課金よりも、オンプレミスで機材を買ったほうが安上がりになる分岐点があります。
- ネットワークの遅延を極限まで削りたいか?:物理的な距離をゼロに近づけたいなら、オンプレミス(またはエッジコンピューティング)が有利です。
9. まとめ:オンプレミスとどう向き合うか
オンプレミスは、決して過去の遺物ではありません。「所有」することによる自由度と安心感、そしてクラウドにはない物理的な手触りがあるインフラ形態です。
- クラウドは「スピードと柔軟性」を買うもの。
- オンプレミスは「コントロール権と特定の要件」を確保するもの。
それぞれの特性を正しく理解し、目的(やりたいこと)に合わせて使い分けることが、エンジニアや意思決定者に求められる最も重要なスキルです。
Yachi特にWeb系のエンジニアだと、今はクラウドだけにしか触れないことが多いと思います。私もエンジニアになってから、クラウドからオンプレミスへの接続経路の設計はしたことはあっても実際に物理サーバー機器を構築したり操作したことはありません。クラウドとオンプレミスとの接続はネットワークの知識を高められる良い経験になりますよ。
これから実務で「オンプレ」という言葉が出てきたら、単に「自社サーバーのことだな」と思うだけでなく、その裏側にある「物理的な設備の管理」や「所有することの責任」についても思いを馳せてみてください。
